大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)189号 判決 1970年4月02日

控訴人

高柳宜和

代理人

山本政喜

新井正煕

山本武一

復代理人

徳田靖之

被控訴人

埼玉県保用保証協会

代理人

木村長次

木村一郎

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次に附加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、請求原因に対する認否に「原告が元利金支払を訴外会社に通知したのは昭和三五年一一月一〇日である」を加え、被告の抗弁二のうち「右訴」のあとに「による判決は」を加える)。

一  控訴代理人は、次のように述べた。

1  控訴人は、はじめ、本件求償金債務が主債務者三和縫製株式会社との連帯保証債務であるという被控訴人の法律的見解を肯定したが右はいわゆる権利自白に該当するものであつて裁判所および控訴人を拘束するものではない。しかし、かりに、本件求償金債務が連帯保証債務であるという事実について控訴人が自白をしたものであるとしても右自白は真実に反し、かつ、錯誤によるものであるからこれを撤回して右事実を否認する。すなわち、共同保証人の一人が、弁済をした他の保証人に対して負担する求償金債務は、本来主債務者の負担する求償債務を保証する保証債務ではないと解すべきであり、本件においては、共同保証人たる控訴人と被控訴人との間において求償債務についての保証契約が締結されたことはなく、被控訴人が将来取得することあるべき求償金につき、控訴人は主債務者と連帯して支払う旨の特約が昭和三五年二月三日締結されただけであつて、これにより控訴人は主債務者と求償金につき連帯債務を負うに過ぎない。したがつて、右自白は真実に反すること明らかである。

2  控訴人が本件特約を結ぶ際、約定書(甲第一号証)に連帯保証人として署名捺印したのは、被控訴人との関係においてしたのではなく、債権者埼玉県信用金庫との関係においてしたのであり、同約定書に記載された約款八条一項に「被保証人の連帯保証人は、協会が被保証人に対し将来取得することのある求償権……について、被保証人と連帯し……て弁済の責に任ずるものとする。」というのは共同保証人である控訴人が全額かつ主債務者と連帯して求償に応ずる連帯債務を負担する趣旨であるから、控訴人の求償金債務は連帯保証債務ではなく、したがつて、これを保証債務の一種とみて、短期消滅時効の主張を排斥することはできない。

二  被控訴代理人は次のように述べた。

1  控訴人が当初、本件求償金債務を主債務者三和縫製株式会社との連帯保証債務と主張したのは、被控訴人の具体的に主張した本件契約に基づく事実に関し、しかも、通常人にもよくわかる保証という用語を用い、訴訟代理人によつてなされたのであるから、単なる権利自白ではなくて自白であり、右自白の撤回には異議がある。

2  控訴人が本件特約を結ぶとき約定書(甲第一号証)に連帯保証人として署名捺印したのは債権者埼玉県信用金庫との関係においてしたものではなく、被控訴人との関係においてしたものであることは、右約定書が埼玉県信用金庫を当事者とせず、三和縫製株式会社、控訴人および被控訴人を当事者としたことによつて明らかであり、右三和縫製株式会社を被保証人とする右約定書に記載された約款のうちには、被保証人が被控訴人の請求に応じ、被控訴人が被保証人に対し将来取得することのあるまたは、取得した求償権を担保するために連帯保証人を追加すべき旨の規定(六条)および被控訴人が被保証人に対し将来取得することのある求償権について控訴人が被保証人と連帯して弁済の責に任ずべき旨の規定(八条一項)があることによつても本件求償金債務につき保証契約が締結されたことは明白である。

理由

一、三和縫製株式会社(以下、三和縫製という)が埼玉県信用金庫(以下、信用金庫という)から三〇万円を、被控訴人主張どおりの利息、期間の約定で借り入れるにあたつて、被控訴人がその主張の当時控訴人と連帯して三和縫製の信用金庫に対する貸金債務を保証したこと、被控訴人が右保証債務の履行によつて将来取得することあるべき求償金債権につき、控訴人は三和縫製と連帯して、被控訴人に対し日歩七銭以内の割合による賠償金を附加して支払うべき旨の約定をしたこと、ならびに、三和縫製が信用金庫から借り受けた三〇万円の支払期日を徒過したので、被控訴人が昭和三五年一一月九日信用金庫に貸金元利金三〇万一、四四七円を支払つたこと、従つて被控訴人が三和縫製および控訴人に対して同額の求償金債権を取得したことおよび右の債権が何れも商行為によつて生じたことは当事者間に争いがないから、五年の商事時効は両債権につき控訴人主張のとおり遅くとも昭和三五年一一月一一日より進行を開始したというべきである。ところで、被控訴人が主債務者である三和縫製に対し前記求償金の支払を求めるため、浦和地方裁判所に訴を提起し昭和三六年八月八日勝訴の判決を得たことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証の二によれば右判決が同年九月五日の経過とともに確定したことが認められるから、三和縫製に対する右求償債権は、右訴の提起により時効を中断されたうえ、判決確定の日の翌日たる昭和三六年九月六日からさらに一〇年の時効期間に服することになつたといわなければならない。

二、そこで、連帯保証債務者である控訴人の求償債務も同様に右判決確定の日から一〇年の時効に服するに至つたという再抗弁の当否について判断する。

昭和三五年二月三日被控訴人と控訴人とが三和縫製の貸金債務を保証するにあたつてなした約定には、前記条項のほか控訴人が自ら保証債務を履行しても被控訴人に対し、求償権を行使しない旨の条項を含んでいたことは当事者間に争いがない。そして、民法四五七条一項は主たる債務が時効によつて消滅することを防ぐための規定であり、もつぱら、主たる債務の履行を担保することを目的とする保証債務の附従性に基づくものであると解されるから、主たる債務の消滅時効期間が判決の確定に伴つて一〇年に延長されるときには、これに応じて保証人の債務の消滅時効期間も同じく一〇年に変ずるものと解するのが相当であり(最高裁昭和四三年(オ)第五一九号昭和四三年一〇月一七日判決最高裁裁判集民事九二号六〇一頁参照)、連帯保証債務が保証債務として同条の適用を受けることはいうまでもないから、もし控訴人の本件求償金債務が連帯保証債務であれば、右債務の時効期間が一〇年に変ずると解すべきである。ところが、民法四五七条一項は保証債務の従属性に基づく規定であつて、連帯債務には適用されないと解すべきであるから、控訴人の本件求償金債務が連帯債務であれば、右債務の時効期間が一〇年に変ずる筋合はなく、前記判決確定の翌日たる昭和三六年九月六日から、更に五年の消滅時効が進行し、昭和四一年九月五日限りで時効により消滅したものと言わねばならない。したがつて、前記再抗弁の当否は、控訴人の本件求償金債務を被控訴人主張のような連帯保証債務または保証債務とみるべきか否かにかかるというべきである。

被控訴人は、控訴人の本件債務が連帯保証債務であることについての自白の撤回に異議がある旨主張するが、控訴人の右主張の変更は、昭和三五年二月三日被控訴人との間に締結された(一)被控訴人が将来取得する求償金に対し控訴人は三和縫製と連帯して支払う。(二)右求償金に対しては日歩七銭以内の割合による損害金を支払う。(三)控訴人は自ら保証債務を履行しても被控訴人に対し求償権を行使しない。旨の約定に基づく控訴人の求償債務を連帯保証債務とみるか、単なる連帯債務とみるかについて、その法律的見解を変更したに過ぎないことが明らかであるから、右はいわゆる権利自白の撤回であつて、自白の撤回に該当せず、被控訴人の前記主張は採用することができない。ところが、主債務者の債務を弁済した保証人の一人に対する他の共同保証人の求償金債務は別段の特約が認められないかぎりこれを主債務者の求償金債務についての保証債務と解し得ないことは控訴人の主張するとおりであるから、本件につき別段の特約と認め得べきものがあるか否かについて検討するに、結論をさきに言えば、これを認めるに足りる証拠はないというほかはない。甲第一号証は、三和縫製と控訴人とが連名で被控訴人宛に差入れた信用保証委託約定書であつて、控訴人はその連帯保証人欄に署名捺印し、三和縫製は債務者(被保証人)欄に記名捺印しているけれども、右の「債務者」「被保証人」「連帯保証人」の字句は、被控訴人の保証により三和縫製が融資を受けようとする信用金庫との間の貸借について用いられているものであつて、被控訴人との間の求償関係について用いられたものでないことは、甲第一号証自体からこれを認めることができる。即ち、甲第一号証は、右に触れた通り、三和縫製が信用金庫から融資を受けについて、三和縫製および控訴人が被控訴人に対し保証を委託するとともに、これについては被控訴人の定めた約款を遵守することを約した書面であるが、甲第一号証の裏面に印刷された約款を見ると、第一条に「埼玉県信用保証協会(註、被控訴人)の保証により資金の貸付を受ける中小企業者(以下被保証人という。註三和縫製)の信用保証の委託はこの約款の定めるところによる。」とあり、右の「被保証人」とは被控訴人が信用金庫に対し三和縫製の債務を保証することに対応して用いられているものであり、又第八条第一項に「被保証人の連帯保証人(以下連帯保証人という)は、協会(註被控訴人)が被保証人に対し将来取得することにある求償権……について被保証人と連帯し且つ保証人相互の間に連帯して弁済の責に任ずるものとする。」とあり、同条第三項に「連帯保証人は自ら保証債務を履行しても協会(註、被控訴人)に対し求償権を行使しないものとする。」とあるが、この「保証債務」の字句が前記信用金庫に対する保証債務、従つて「連帯保証人」という字句も同様であることは、文理上明らかであり、右の第八条は、被控訴人および控訴人ら連帯保証人間の求償関係においては、被控訴人の負担部分を零とするとともに、被控訴人の取得した求償権に対し、他の保証人は連帯して責に任ずべきことを規定したものであり、又第六条に規定されている「被保証人(註、三和縫製)は……協会(註、被控訴人)が将来取得する又は既に取得した求償権を担保するために、協会の指定する被保証人所有の物件に担保権を設定することは勿論連帯保証人の追加を請求された場合直ちにこれに応ずるものとする。」との条項中の「連帯保証人」も前記金庫に対する関係で連帯保証人の追加を求めたものであり、それが第八条の規定によりひいては被控訴人の取得することあるべき求償権を担保する結果につながるものと理解すべきものである。そして甲第一号証には、控訴人が被控訴人の取得することあるべき三和縫製に対する求償権を保証することを約した条項のないところから判断すれば、控訴人の肩書に連帯保証人の字句が印刷されていることから、被控訴人主張の連帯保証の特約を肯定できないことはもとより、右に述べた条項からだけでは、その特約を認めることはできない。以上の次第で甲第一号証によつては被控訴人主張の連帯保証の特約を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

次に被控訴人は、控訴人の五年の消滅時効の援用は条理に反して許されないと抗争するが、仮に控訴人が被控訴人に対し住所移転の通知をせず被控訴人が控訴人に対し履行の請求をすることができなかつたとしても、それだけで、前記判決の確定とともに進行を開始した消滅時効を援用することが条理に反するということはできないから、この仮定再抗弁もまた理由がなく、採用のかぎりではない。

そうであるとすれば、前記判決の確定した日から五年を経過した昭和四一年九月五日かぎり本件求償権債権は商事時効によつて消滅したというべきである。

以上の理由により被控訴人の控訴人に対する本訴請求は失当として棄却を免れない。

三、よつて、以上と異なり被控訴人の請求を認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条、九六条を適用して、主文のとおり判決する。(室伏壮一郎 園部秀信 森綱郎)

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